座礁・混獲した鯨類への対処法 
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4 座礁・混獲した鯨類への対処法

4−3.定置網に混獲された場合

 以下の手順によって,救出作業にかかる。

[1] 救出作業の実際−イルカ等の小型鯨類の場合

 まず,各都道府県または市町村の水産担当部署に連絡するとともに,付録1にあげた混獲鯨類に関する問い合わせ先が近隣にある場合には,その情報を伝えて,指示にしたがう。場合によって専門家が派遣されてくることがある。
 小型鯨類の場合は
 1.網からの追い出し
 2.網上げによる動物のとりあげ
 3.網を開くか切っての放獣
が考えられる。
 また,水族館から専門家が派遣されてきた場合には,網内に入って生け捕りを試みることもある。
 こうした作業においては,種によっては,救出作業の最中に網の底に向かって逃げ,新たに羅網してしまう可能性があるので注意が必要である。しかし,バンドウイルカやカマイルカなどの飼育に適しているとされる種では,比較的こうした作業のストレスに強く,いわゆるパニックには陥りにくいらしい。
 以下,1.3.のそれぞれの場合について記す。

1.網からの追い出し
動物が箱網等の定置網の深奥部までまだ入り込んでおらず,“運動場”や垣 網付近で遊泳している場合には,小型ボート等により,箱網側から動物を網 の外へ追い出すことを試みる。追い出しの際には,動物の後方から水面を叩くと効果がある場合がある。うまくいけばこれが最も簡単な方法である。
追い出しにより,動物がさらに網の奥に進み,“運動場”から箱網に入って しまった場合には,2.の措置を試みる。

2.網上げによる取り上げ
定置網の奥に動物が入り込んでしまい,動物の逃げ道がなくなってしまった 場合には,動物を取り上げることを試みる。

動物を“運動場”方向から徐々に箱網の奥に追い込み,箱網を徐々に揚げて ,動物を網の外へ逃がす。

動物は皮膚に網が接触すると比較的おとなしくなることが多い。

動物を網の外に出すため,船上に一時取り上げる場合は,輪をつくった幅広 の(平打ちの)ロープ(スリング)を尾柄にかけたり,胸びれ後方にバンド を巻くなどし,必要に応じてクレーンで引き揚げる(小さな個体では,複数の人間の力で直接揚げることも可能である)。あるいは,網を入れて,動物を巻き込み,網ごと動物を船の上に持ち上げてもよい。

これらの作業のとき,海況が許せば,ダイバーが水中に入ってロープかけな どを補助すると作業が効率よく進む。

作業中,動物が急に体を振って暴れることがあるので,十分注意する。

突き傷は動物に致命傷を与えることになるので,作業にあたって,手鈎の使 用は慎むこと。

このあと,動物の状況に応じて,つぎの放獣か治療のいずれかの措置をとる 。

すなわち,
●動物にとくに大きな外傷がなく,健康状態が良好と判断され,正常に遊泳できると考えられる場合
   →動物を網の外へ運び出し,そのまま放獣する。…(ア 参照)

●動物に顕著な外傷があり,そのまま放獣しても,正常には遊泳できないと判断され,かつ近隣に水族館等の飼育施設がある場合
   →飼育施設に運び,保護・治療する。…(イ 参照)

●そのままでは回復や生存が望めないが,治療・収容先がない場合
   →やむを得ずそのまま放獣するか,放置等する。


ア)放獣に際して
体を水平にして泳げることを確認したら(でき得れば,ダイバーが水中に 入って,動物が自力遊泳を開始するまで,体を支えてやるとよい),取り 上げに使用した布や網,ロープなどをはずす。
すぐに放獣する場合はほとんど問題にならないが,船に上げてから放獣ま でにしばらく時間がかかる場合は,空気中に動物の体がでている間,適宜 水をかけてやり,体の表面が乾燥しないようにする。但し,このとき,呼吸孔には絶対に水をかけないようにする。
また,動物の体は,腹を下にするような姿勢を保っておく。
動物は空気中に出されて,長時間放置されていると,体が硬直しているの で,水中ではしばらく支えが必要である。放獣前に,静かにゆすってやる と動くようになることがある。決してひれや尾をつかんだりせず,体の両脇や背びれのつけ根を押してやる。

イ)保護・治療に際して
収容先の専門家(獣医師等)の到着がすぐであれば,それを待って対処す るのが望ましいが,それが困難な場合には,輸送までの間,動物の状況に 注意しながら以下の措置を行っておく。
鯨類は,肺呼吸をする哺乳類であるから,水から体を外に出しても, 呼吸がしっかりできるようにしておけば,ふつうすぐには死なない。 したがって,呼吸孔が自由に開閉できるようにしておく。
専門家の到着を待つ間,動物の体を冷やし,落ち着かせ,楽な状態に させておく。鯨類は水中生活に適応しており,陸に上がると,たとえ 外気が冷たくとも体温は急激に上昇する。鯨類は,胸びれ,背びれ,尾びれから熱を発して身体を冷却するので,これらの部位は体温を低く保つためにとくに重要である。皮膚が敏感で,空気中ではすぐに乾燥し始めるので,体の表面を常に海水や真水で湿らせておく必要がある。
こうした作業に際して,動物の体を移動させたり,向きをかえるときは, 手鈎の使用は慎むこと。突き傷は動物に致命傷を与えることになる。
動物を運ぶ際,胸びれは傷つきやすいので,押したり引いたりしないこと 。動物を持ち上げて布や網に乗せるか,あるいは体の下に注意深く布や網 を敷く。


3.網の切り離し・切断による放獣
1.2.の措置を講じる努力をしても動物が逃げていかなかったり,取 り上げが困難な場合は,定置網の網の結び目を解いたり,あるいは網の一部 を切って逃げ道をつくり,そこから動物を外へ追い出すことを試みる。

可能であれば,箱網の魚取部の結び目を解いて口を開ける。網の底部付近よ りも,海面に近い上部を開ける方が動物は逃げていきやすい。

こうした一連の作業のとき,可能であれば,水中にダイバーが入り,ロープ 取り,あるいは切断などの水中作業を行うとよいが,困難な場合は,水中マ スク等をつけ,頭部を水中に入れて網の内部の様子を見ながら行う。

 以上の措置を完了したら,「6.報告」にしたがって,関係機関に処理について報告をする。なお,混獲された鯨類およびそのときの状況を示す写真を撮影することもつねに心掛けておく。


[2] 救出作業の実際−ミンククジラ等の中〜大型鯨類の場合

 まず,各都道府県または市町村の水産担当部署に連絡するとともに,付録1にあげた混獲鯨類に関する問い合わせ先が近隣にある場合には,その情報を伝えて,その指示にしたがう。場合によって専門家が派遣されてくることがある。
 中〜大型鯨類の場合には,小型鯨類(イルカ類)のように,一旦捕えてから逃がすことは現実的にかなり困難であると思われるが,過去に成功した例もある。また,網の結び目を解くことによって,動物の逃げ道をつくり,そこから逃がすことに成功した例もあるほか,2隻の伝馬船の間を角材で連結し,その間に網を張って動物を載せて輸送した例もある。
 中〜大型鯨類の場合は
 1.網からの追い出し
 2.取り上げによる放獣
 3.網を開くか,切っての追い出し
が考えられる。

クジラ・イルカの救出法


1.網からの追い出し
動物が箱網等の定置網の深奥部までまだ入り込んでおらず,“運動場”や垣 網付近で遊泳している場合には,小型ボート等により,箱網側から動物を網 の外へ追い出すことを試みる。

追い出しにより,動物がさらに網の奥に進み,“運動場”から箱網に入って しまった場合には,つぎの2.の措置を試みる。


2.取り上げによる放獣
定置網の奥に動物が入り込んでしまい,動物の逃げ道がなくなってしまった 場合には,動物を一旦,取り上げることを試みる。

小型ボート等により,動物を“運動場”方向から徐々に箱網の奥に追い込む 。

大型鯨類の場合は,皮膚に網が接触するとイルカ類よりもよりおとなしくな ることが多い。

動物を網の外に出すため,船上に一時取り上げる場合は,胸びれ後方にバン ドを巻くなどして,クレーンで引き揚げる。あるいは,網を入れて,動物を 巻き込み,網ごと動物を船の上に持ち上げてもよい。

作業中,動物が体を左右に動かして,尾びれを大きく振ることがあるので尾 びれのそばにはできるだけ近づかないよう,とくに注意を払うこと。

これらの作業のとき,海況が許せば,ダイバーが水中に入ってロープかけな どを補助すると作業が効率よく進む。

突き傷は動物に致命傷を与えることになるので,作業にあたって,動物の体 に対しての直接的な手鈎の使用は慎むこと。

取り上げた動物を網の外へ運び出し,放獣する。


3.網の切り離し・切断による追い出し
1.2.の措置では対処できない場合は,定置網の網の結び目を解いた り,あるいは網の一部を切って逃げ道をつくり,そこから動物を外へ追い出 すことを試みる。

網を開く(あるいは切る)場合には,網の底部を開けても動物がそこまで潜 って逃げることはあまりないようである。このため,動物がいる深さ(通常 ,水面近く)で網を開く(切る)必要がある。うまくいけば,そこから動物は逃げていくが,無理な場合は,網を開いた(切った)側へ向けて動物を追う。

こうした一連の作業のとき,可能であれば,水中にダイバーが入り,ロープ 取り,あるいは切断などの水中作業を行うとよいが,困難な場合は,水中マ スク等をつけ,頭部を水中に入れて網の内部の様子を見ながら行う。

網を開く(あるいは切っても),動物が簡単には逃げていかないときは,船 により沖へ追い出す。

 以上の措置を完了したら,「6.報告」にしたがって,関係機関に処理について報告をする。なお,混獲された鯨類およびそのときの状況を示す写真を撮影することも心掛けておく。